理化学研究所(理研)革新知能統合研究センター生命空間医科学チームの赤塚純客員研究員(日本医科大学泌尿器科准教授)、堤光太郎客員研究員、山本陽一朗チームディレクター(東北大学大学院医学系研究科人工知能医科学分野教授)らの共同研究グループは、AIの推論過程に医学的知識を組み込む新しいアプローチを提示し、がんAI予測における「二重の壁」である施設差や検体差に左右されない、データ効率の高い技術を構築しました。
本研究成果は、「ドメインシフト[1]問題」と呼ばれているAIの汎用性に対する重要課題解決への一つの道筋を示すもので、地域差や施設規模に左右されず、誰もが公平に質の高い医療を受けられる未来の実現に貢献することが期待されます。
医療現場で用いられる病理画像は、病院ごとに色や質が異なり、手術前の生検検体[2]と手術後の全摘検体[3]では観察によって得られる情報も大きく変わります。AIにとってはこれらの“ばらつき”が予測精度を下げる「二重の壁(二つのドメインシフト)」となり、どこでも同じように使えるAIの実現を阻んできました。
今回、共同研究グループは、前立腺がん患者の生検組織から、将来の病状進行を病理プロファイル[4]を用いてAI予測する際に、「人間の基準より少しだけ詳しい道しるべ」である中間推論スコア[5]を用いるという新しいアプローチを採用することで、医学領域では長く困難とされてきたAI予測の精度と汎用性を同時に向上することができました。
[補足説明]
[1] ドメインシフト
学習データと、実際に使うデータの分布が異なることで、AIの性能が落ちる現象。
[2] 生検検体
手術前に診断のために体内から部分的に取り出した組織標本で、前立腺がんでは針を使って採取する小さな組織サンプルのこと。
[3] 全摘検体
手術で臓器を切除して得られる大型の組織標本で、前立腺全摘術では臓器全体が観察可能であるため生検検体に比べて情報量が非常に多い。
[4] 病理プロファイル
病理的な所見の集まりとして、本研究では深層学習モデルにより病理画像から抽出した100種類の特徴について各症例にどの特徴がどれだけ含まれるかを定量化した特徴構成表。
[5] 中間推論スコア
最終結果を予測する前にAIに適した「中間的な尺度」を一度推定することで、予測を安定させるための手掛かりとなる指標。
本研究は、科学雑誌『Nature』の関連誌『npj Digital Medicine』(1月7日付)に掲載されました。
論文タイトル:
Clinically informed intermediate reasoning enables generalizable prostate cancer prognostication through machine learning in limited settings
著者名:
Jun Akatsuka*, Kotaro Tsutsumi*, Mami Takadate, Yasushi Numata, Hiromu Morikawa, Atsushi Marugame, Hayato Takeda, Yuki Endo, Yuka Toyama, Takayuki Takahashi, Kaori Ono, Junya Iwazaki, Ryuji Ohashi, Akira Shimizu, Tomoharu Kiyuna, Maki Ogura, Masao Ueki, Takuma Kato, Toshiyuki China, Mikio Sugimoto, Hisamitsu Ide, Naoto Sassa, Naonori Ueda, Shigeo Horie, Toyonori Tsuzuki, Go Kimura, Yukihiro Kondo, and Yoichiro Yamamoto
*equally contributed to this work
発表の詳細は理研のウエブサイトよりご覧ください。
- メディア掲載
2026年1月19日 つくばサイエンスニュース(つくば科学万博記念財団)
「前立腺がん手術の成否予測―AIで精度大幅アップ」

