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202210~20231
第5回セミナー・レポート

進路・キャリアについての熱いメッセージもたくさん!

第5回「女子中高生のための『数理・情報・AI』最前線!」レポート

 オンラインセミナーシリーズ「女子中高生のための『数理・情報・AI』最前線!」第5回を2022年12月15日(木)に開催しました。リーマン幾何や最適輸送理論という数学分野を研究している高津飛鳥先生、微分方程式の解の挙動を研究している渡邉南さん、人工知能(AI)の説明の可視化を研究している澤田頌子さんが講演しました。3人とも、女子中高生たちへ進路選択やキャリア形成についての熱いメッセージを送りました。
(*2番目の渡邉南さんの記事は、後日公開予定。)


■“かたち”を見る研究に取り組む: 研究員 高津飛鳥先生


 私は数学の幾何の分野で“かたち”を見る研究に取り組んでいます。
 小学2年生のころに、学校の先生が「昔の人たちは地球は平らだと思っていた」と話していました。いまでは宇宙船から地球を見れば丸いとわかりますが、それ以外の方法で地球が丸いということをどのように調べることができるのでしょうか。
 方法の一つとして、熱方程式の利用があります。「ランダムウォーク」または「酔歩」という動きと関連しています。地球上に「酔っぱらった人」100万人を放ち、ランダムに歩いてもらうとします。もし地球が丸ければその人たちはぐるぐると歩きまわり、そこかしこにいる状況になります。こうした物理現象を通して、地球のかたちを見ることができます。


志望大学を決めたのは高3の夏

 中学生の頃、はじめは数学が嫌いでした。けれども、中学3年生のときの物理の先生の説明が上手で、「ものが落ちる現象を式で表すことができる」と聞き、物理の分野に進みたいと思うようになりました。その後、二転三転しましたが、高校1年の終わりには、大学で数学を学びたいと思うようになりました。
 志望大学を決めたのは高校3年の夏でした。「遠方の大学に行きたい」と私が言いうと、親には、「近くの大学ではだめなのか」と言われましたが、最終的には私の希望どおりに進学できました。私の場合、進路の決定は人よりも遅かったと思いますが、問題を感じたことはありません。


「数学を社会に役立てる」という意識はないが「数学のニーズ」は社会にある

 大別すると応用数学と純粋数学がありますが、私は純粋数学の研究をしています。「社会のために数学をしている」という思いは私自身にはほとんどありません。一方で、自動車の開発など数学を使って事業をおこなう会社は多くあるので、就職や社会貢献という点では数学は適していると思います。


二点を結ぶ最短線を考える

 みなさんにさらに私について聞きたいことを、「研究」「進路」「夢」「その他」「もうお腹いっぱい」のなかからアンケートで投票してもらいます。
 その間にクイズを出します。二つの点を結ぶ最短線はなんでしょう。
 答えは「線分」です。けれども地球は丸いので、たとえば日本からフランスに行こうとするとき、「いちばん短い」をどう定義するかという問題が起きます。この問題は、私の専門である、かたちを見る分野に関わってきます。


2点を結ぶ最短線は…線分だけれど…
スライド1:2点を結ぶ最短線は…線分だけれど…

理論から応用へ、また理論へ

「夢」について聞きたいとの答えが多かったので、夢に関することをお話しします。
 研究のキーワードの一つは「リーマン幾何」です。ドイツの数学者ベルンハルト・リーマンが考えた幾何学です。
 もう一つのキーワードは「最適輸送理論」です。ものを運ぶ方法としていちばんよいものを考えることを指します。地球のように曲がっているところでの最適なものの運び方を考えます。逆に、たくさんものを運んだ結果をみて、その面がどのくらい曲がっているかを理解することもあります。
 最近では、深層学習、機械学習、画像認識といった分野に最適輸送理論が応用されています。純粋数学の理論の研究を進めていると、応用的な技術に役立つことがあります。


リーマン幾何・最適輸送理論
スライド2:リーマン幾何・最適輸送理論

 理論を応用に移して、応用の結果を見て、さらに理論にフィードバックするといったことを、将来の研究で実現できたらと思っています。
 中高生のみなさんは、進路選択で悩むかもしれませんが、自分が信じて、好きといえるものに取り組むのがいちばんだと思います。


高津先生の写真
高津飛鳥(たかつ・あすか)先生。東京都立大学大学院理学研究科数理科学専攻准教授/理研AIP数理科学チーム客員研究員。東北大学理学部数学科卒業。2010年、東北大学理学研究科数学専攻博士課程修了。名古屋大学特任助教、同助教などを経て、2015年に首都大学東京(現・東京都立大学)大学院理工学研究科数理情報科学専攻准教授。2018年、同大学院理学研究科数理科学専攻准教授(2020年より大学名は東京都立大学に)。


■AIがなにを考えているかを可視化する: 学生 澤田頌子さん


 私の専門は可視化です。人間のデータ理解を視覚表現によって支援することが目的です。
 たとえば降水量を文字・数値で表すことができますが、棒グラフで可視化すれば1年ごとに乾季と雨季を繰り返すことや、近年は雨季でも降水量が少なく旱魃が起きているということを見てとることができます。


可視化の例:降水量のデータ分析
スライド4:可視化の例:降水量のデータ分析

 適切な視覚表現の方法を考えるだけでなく、分析やその先にある意思決定を支援する方法を考えることが、この分野では求められています。常に必要なのは、どのような分析が必要かを見出すことです。扱うデータは分析のしかたがわかっているものばかりではありません。分析したことのないほどの大量なデータや、数値でないデータをどう分析したらよいか、また、複数データの組み合わせをどう分析したよいかを考えることもあります。可視化のむずかしくもおもしろい点です。


より信頼できるAIをめざして

 私はいま、「説明可能な人工知能(AI)」のための可視化に取り組んでいます。より信頼できるAIをつくるために、AIがなにを考えて説明しているのかを可視化しようとしています。
 たとえば、ある患者の健康状態のデータから、「この人は68%の確率で糖尿病です」と出力するAIがあるとします。医師はこの確率だけ示されても、理由や根拠がわからなければAIへの信頼をもとにした診断ができません。では、AIがなにを考えて68%と出力したのか。最新のAIは内部構造が複雑化しており、人間が直接的に理解するのは困難です。
 そこで解決策として、AIに入力された健康状態のデータのうち、なにを重視してAIが68%と診断したかを示すという方法が考えられます。AIは根拠として血糖値とボディマス指数(BMI)を見ており、32%という健康の確率については年齢を見ているといった説明があると、医師はそのAIを信頼して確定的な診断をしやすくなるでしょう。ほかにも、診断に必要なルールからAIがなにを考えているか理解しようとする方法などもあります。
 AIの複雑な説明を単純にして可視化することは有用ですが、複雑なAIの一面しか捉えられないおそれがあります。そこで私は、性質の異なる複数の説明を一つの視覚表現に統合し、比較しながらAIの分析を進められる可視化システムを提案しています。多面的に分析できるようになることで、より信頼できるAIがつくれるようになると考えています。医師やAI開発者のAIへの理解や改善に役立てることをめざしています。


自分の研究:複数のAIの説明を統合した可視化分析
スライド5:自分の研究:複数のAIの説明を統合した可視化分析

興味や楽しみを大切に

 高校時代、文学や法学に興味をもっていましたが、家族の勧めで理系を選びました。専門技術が身につくと勧められ情報系を選び、お茶の水女子大学理学部情報科学科に進みました。3年生までで、もっとも楽しく取り組めたのが可視化を研究する伊藤貴之先生の授業で、先生の研究室に入りました。修士課程1年次の留学で研究が進んだため博士課程に進みました。将来は可視化分析の専門家として、課題解決をする仕事ができればと考えています。
 可視化の研究は文系的な要素も持ち合わせた分野で、興味の根幹は高校時代から変わっていません。みなさんは見る世界が広がって興味の対象が移るかもしれませんが、現時点で情報系に興味をもっているということを大事にしてほしいと思います。
「大学の数学はできるかな」「プログラミングは大丈夫かな」という人もいるかもしれません。不安はあっても、自分に合う分野が見つかる可能性は高いと思います。みなさんも興味や楽しみを中心に進路を選んだらよいのではないかと思います。



【プロフィール】
澤田頌子さんの写真
澤田頌子(さわだ・しょうこ)さん。東京大学大学院情報理工学系研究科電子情報学専攻博士課程。お茶の水女子大学理学部情報科学科卒業。同大学院理学専攻情報科学コースを修了し、現ポジションに。