数理最適化、AIと言語、高速AR…研究の魅力がいっぱい
第1回「女子高生のための『数理・情報・AI』最前線!」レポート
オンラインセミナーシリーズ「女子高生のための『数理・情報・AI』最前線!」の第1回を2022年10月20日(木)に開催しました。女子中高生の参加者みなさんに、数学者の武田朗子先生、人工知能を研究する大学院生の黒田彗莉さん、ARを研究する三河祐梨さんが、数理・情報・AI分野での研究の魅力や進路選択の理由を話し、参加者たちにエールも送りました。3人のお話をダイジェストでお伝えします。
■世の中の“困った”を解決する数学: 研究員 武田朗子先生
「数学って役立つの?」と聞かれます。答えは「もちろん!」です。
私が数学は役立つと感じたのは中学2年のとき。私も母も映画好きで、よくテレビ番組をビデオ録画していました。ビデオテープ120分に対して映画は135分などと長いことがあり、母が「3倍速」に切りかえます。でも、画質が落ちるのでぎりぎりまで1倍速できれいに録りたい。この問題について、xが3倍速の切りかえタイミングとすると、「x+(135-x)/3=120」という式から、x=112と求められ、「112分後に3倍速に切りかえればぴたり収まるよ!」と解決できました。母に「すごい!」とほめられ、「数学って喜ばれるものなんだ」と感じたのです。
~働きかたを自分で決めることができる~
私が感じている理系のメリットを挙げてみます。むずかしい授業はあるものの、充実した学生生活を送ることができます。また、矛盾がないか、論理の飛躍がないかと考えることが多く、論理的思考が養われます。仕事で専門職につきやすいことや、働く時間の融通が利きやすいこともメリットに感じています。
研究者としての私の仕事は、研究室所属学生への指導、海外の研究仲間との共同研究、企業との共同研究などがあります。また、講演依頼や原稿執筆、大学での講義や大学の運営に関わる仕事もあり多岐にわたります。どれに比重を置くかは大抵自分で選ぶことができます。自分で仕事の内容をある程度決められ、自分のペースをもてるのもこの仕事のメリットではないかと思います。私の場合は、学生と研究をワイワイやるのが好きなので、研究室所属学生の研究指導が大きな比重を占めています。
~世の中の問題に数理最適化で解と解法を示す~
研究は、数理最適化という分野を専攻しています。ベストな解が簡単にはわからない問題に対し、アルゴリズムとよばれる解き方を考えることをしています。先ほどのビデオテープの問題では解決するために線形方程式というモデルを立てましたが、私は最適化モデルというモデルを立てています。
数理最適化では目的を最小化または最大化することをめざします。たとえば、目的が時間であれば、最短時間で駅まで行くためにどんな経路をとるとよいか、目的関数や制約を式で表して、ベストな経路を見つけます。あるいは、予算の制約がある中で、満足度を最大にするような塾を選ぶといったこともできます。
高校2年生にも「領域における最大と最小」という学習項目があり、じつはみなさんも数理最適化を少し習っているのです。「2x + y ≥ 4, y − x ≤ 4, 3x − y ≤ 6のとき、x + 2y の最大値、最小値とそのときの x , y の値を求めよ」といった問題では、目的関数や制約などを使って最適化問題の形で表現できます。
先に言ったように、私たち研究者はアルゴリズムを考えてもいます。1947年に提案された「単体法」や、計算量の増加に対応した「内点法」などはいまも使われています。よりよい解き方を考えて提案することが研究者の仕事です。
みなさんも、いくつかの選択肢があり、どれを選べばよいかというときは、数理最適化を使って考えてみてください。研究に興味ある人は「数理計画」「最適化法」「オペレーションズ・リサーチ」といったキーワードで検索してみるとよいでしょう。大学では、係数工学科のほか、管理工学や経営工学がつく学科で学べます。
■機械の「考えるしくみ」を新たなものに: 学生 黒田彗莉さん
現在、私は大学院の博士後期課程にいて、機械がヒトのように言語を使って考える仕組みをつくることを目標に研究をしています。ヒトは「明日なにしよう?」ということを頭の中で言語を使って考えるのに対し、機械は機械語と呼ばれる数値を使って「考える」ことをしています。
現在の研究では、物理法則を考慮した予測モデルを作ることに取り組んでいます。私たち人間は画像を見たとき「白い車が右に向かって走っている」と瞬時に理解できます。しかし従来の予測モデルでは、画像になにが写っているかわからないまま予測をしています。そこで機械もヒトのように、画像内にどんな物体があるか、どういう挙動をしているかといった物理的特性を捉えることができる予測モデルを作りたいと考えています。さらに予測結果を画像だけでなく、文章でも生成したいと考えています。
~「SNSがめんどくさい」は興味・関心の裏返し~
進路を考えたときから文系内容への興味はあまりなく、理系進学は私のなかで決まっていました。また高校生の頃がちょうどネット過渡期であり、色々なSNSツールを使い始めた時代でした。そのような経験から「SNSを使うの面倒だな」と感じるようになっていたものの、結局情報系に進学しました。理由としては、今改めて考えると「面倒に感じる」ほどインターネットにハマっていたからなのかなと思います。そのためネット(情報)を学ぶことに対しては抵抗がなかったので、情報系へ進学しました。
また大学を決めた理由は、自宅から通え、少人数の大学がよかったという点からお茶の水女子大学に進学しました。情報系というと比較的男性が多い分野ですが、女子大学なので「情報系に進学したいけど、女性が少ないから諦める」ということを考える必要はありません。また出身の情報科学科の1学年の学生数は40人ほどと他大学と比べても少なく、先生方との距離が近いので面倒見が良い学科だと思います。
~自分という軸を大切に~
現在の私自身の目標は、まずは博士号を取ることです。その後の、学術の世界に進むか、企業に進むかといった将来の選択はこれから考えて決めようと思っています。また今現在はドイツに留学中なので、海外での研究への向き合い方を学んだり、色々なことを経験したいと考えています。
そしてみなさんにお伝えしたいことは、進路選択では純粋に興味・関心あることを一番に考えてほしいということです。まだ興味を持てるものがないという方も、自分にとって比較的嫌ではないことを進路先の候補として考えてみるのもよいと思います。
また周りの方と比べることが多い年代ですが、周りに流されすぎないような「自分の軸」を持っていると良いかなと思います。これはいつの時代・どの年代にも当てはまることだなと思っていて、私自身もようやく大切だなと思えるようになりました。みなさんにもこのようなことを心の片隅に置いてもらえると、毎日を元気に過ごせるのかなと思っています。
■感情の高まる体験を「高速AR」から: 学生 三河祐梨さん
私の専門は拡張現実感(AR)です。「ポケモンGO」で体験する機会が増えましたね。研究では2次元の表現を超え、空間に3次元的な映像を出すことに取り組んでいます。
研究でとくに私が重視しているのが「高速なAR」です。ARの見た目は幻想的で“映える”ものですが、その裏ではカメラで物体をキャプチャして計測し、画像処理をして認識し、映像として提示し、さらにこれらをループさせるという大変な作業がおこなわれています。ループが遅いと映像が紙の動きについていけず、人間は投影ずれを感じ、映像が紙に貼りついている感じになりません。ループを速くできると、人間の知覚の閾値を超えて、映像が紙にぴたりと貼りついているように感じられるようになります。動きにできるだけ早く追従することがARでは重要なのです。
~■広域に対応「円周マーカ」を開発~
高速ARは、エンターテインメント的なもののほか、実用的にも役立っていくと思います。たとえば、球技でのボールの回転数をその場で表示する運動情報提示は用途のひとつです。回転数を直接ボール自身に投影して表示してしまえば、プレイ後、モニタまで見に行かねばならない煩わしさを省くことができます。ほかに質感提示の技術も役立っていくことでしょう。素材をガラスのような手ざわり感に変えたり、服をゴールドに変えたりできます。
高速ARの研究のなかでも、私は計測から認識にかけての部分を専門とし、高速にトラッキングできるマーカの開発に取り組んでいます。物体そのものを認識しようとすると大変ですが、物体についたマーカを認識すれば、トラッキングが簡単になります。私は、マーカが点在する従来のクラスターマーカとちがい、マーカを円状にした「円周マーカ」を開発しました。円というかたちは、映像情報のボケや解像度低下に強いため、よく読み取れます。この技術で広域なプロジェクション・マッピングも可能になります。perfumeのみなさんとコラボできたらおもしろいなと思っています。
~AR・VRで人びとの感情のボトムアップを~
ARの分野に進んだのは、「胸がときめいた」からです。大学の授業でデモ動画を見たとき。研究室で動画をつくったとき。インターンシップ先でホロレンズを使ったとき。この3回キュンとしました。
そもそも理系なのは、両親とも理系で必然的でした。数学が好きだったので、計数工学科に進みました。ARの研究は、画像処理で数学の技術が必要であるほか、光学や人間工学など広い分野にまたがっている点が特徴のひとつです。
研究面では将来、ARそれに仮想現実(VR)の「体験を改造できる」という特徴を使って、人びとの感情のボトムアップをはかれたらと思います。芸術などの要素も取り入れられる点も魅力的に思います。一方で、体験の改造はドラッグ的なものにもなりうるので、法整備が大切になるとも考えています。
個人としては、女性がすくないARの分野で「輝く女性像」を示しつづけていきたい。女子学生が輝くための奨学金団体もゆくゆくつくれたらと思います。これから、結婚、出産、家庭生活も待っていると思います。研究とのバランスをどうするか、考えているところです。