※本研究には、理化学研究所AIPセンター 遺伝統計学チームリーダーが田宮 元が参画しています。
全世界のヒトゲノムデータの蓄積に伴ってこの20年ほどで実施されてきたGWASにより、ヒトの遺伝的変異と将来の疾患発症リスクとの関係が網羅的に判明しつつあります。得られたゲノムデータを基に、長い医学の歴史から構築されてきた多彩なヒトの病気の分類について、客観的に振り返ってみたらどうなるでしょうか? この疑問に適切に答えるためには、従来のゲノム研究の課題である、①:ゲノム研究データが欧米人集団に偏重して構築されていること、②:研究対象となる疾患の網羅性が低かったこと、③:得られた大量のGWAS結果を医学的・生物学的に解釈する方法論が確立されていないこと、の3点を解決する必要がありました。
大阪大学大学院医学系研究科の坂上沙央里助教(研究当時、現ハーバード大学医学部博士研究員)、金井仁弘特別研究学生(ハーバード大学医学部 博士課程)、岡田随象教授(遺伝統計学 / 理化学研究所生命医科学研究センター自己免疫疾患研究チーム 客員主管研究員)、東京大学大学院新領域創成科学研究科 松田浩一教授らの研究グループは、国際バイオバンク連携を通じて、バイオバンク・ジャパン(日本)・UKバイオバンク(英国)・FinnGen(フィンランド)の計63万人のゲノムデータと健康・医療データの網羅的な解析を実施しました。多因子疾患・希少疾患・バイオマーカー・服薬データまでを網羅する過去最大220のヒト形質のゲノムワイド関連解析(GWAS)により、ヒト疾患に関わる5000以上の新規遺伝的リスク関連領域が発見されました。研究グループは、各疾患の遺伝的リスク構造が遺伝的集団を超え共有されていることを示すとともに、得られたゲノム解析アトラスを医療に役立てる方法として、GWAS要約統計量を特異値分解し遺伝学を基にした疾患群の再分類を試みました。東北大学東北メディカル・メガバンク機構が構築したメタボロームデータ等、他のオミクスデータへのプロジェクション解析、エピゲノム情報やパスウェイ等との多分野融合的な解析を実施し、GWAS要約統計量行列を数理学的に分解する工程を経て、より複雑な疾患(例: 心筋梗塞)のリスクを単純な形質の足し合わせとして解釈すること(例: コレステロールと血圧)や、ゲノム変異を基にした疾患の精密分類・層別化方法の提唱(例: I型アレルギーとIV型アレルギー疾患の分類)に成功しました。さらに、本研究結果を広く利用促進することを目的にデータシェアリングサイトPheWeb.jp新規タブで開きますを構築しデータを無償・非制限公開し、Polygenic risk score(PRS)をはじめとするゲノム個別化医療の社会実装基盤として広く利用されることが期待されます。
詳細は東北メディカル・メガバンク機構のニュースをご覧ください。