2019/11/27 14:50

理化学研究所革新知能統合研究センター病理情報学チームの 赤塚 純 客員研究員(日本医科大)と 山本 陽一朗 チームリーダーらの研究グループは、前立腺臓器全体のMRI画像と病理画像を組み合わせることで、MRI画像上のがんに対するAI(ディープラーニング)と医師の着眼点の違いを解明することに成功しました。本研究成果は、AIの解析結果を医師が理解・修正していく上で役立つと共に、安心して使用できる医療AIの実現に貢献すると期待できます。

研究グループは、最初に、307画像の前立腺MRIを用いて、前立腺のがん分類を行うAIを構築しました。次に、病理標本において臓器全体の観察が可能である前立腺の特徴を利用して、MRI 画像と3D 再構築した病理画像データ[1]を結びつけました。そして、連結した画像に対してディープラーニングの分類根拠を可視化する技術を適用し、MRI画像のがん分類時においてAIが重要視した領域と、人間の医師(放射線科医と病理医)の注目する部位が、どの程度合致しているかを解析しました。

その結果、AIが高い分類精度を示した時においても(AUC[2] = 0.90、95%信頼区間:0.87ー0.94)、AIが重要視した領域と医師が注目したがん領域との合致率(放射線科医[3]:70.5%、病理医:72.1%)は、必ずしも高くないことがわかりました。そこで、AIが重要視した領域を詳細に検討したところ、AIは人間と異なった視点で一部のMRI画像を分類しており、病理学的所見を反映した微小画像の複合的な認識が、AIの分類精度向上に役立っている可能性が示唆されました。

図 AIと医師との着眼点が合致した部位

図 AIと医師との着眼点が合致した部位

今後、研究グループは、AIの判断根拠に対する更なる探究を通して、信頼して使用できる医療AIの実現へ向けて研究を進めていく予定です。

本研究は、スイスのオンライン科学雑誌『Biomolecules』(10月30日付け:日本時間10月30日)の“Application of Artificial Intelligence for Medical Research”特集号に掲載されました。

赤塚 純

山本陽一朗

 

 

 

 

 

論文情報
タイトル Illuminating clues of cancer buried in prostate MR image: deep learning and expert approaches
著者名(研究グループ) Jun Akatsuka, Yoichiro Yamamoto, Tetsuro Sekine, Yasushi Numata, Hiromu Morikawa, Kotaro Tsutsumi, Masato Yanagi, Yuki Endo, Hayato Takeda, Tatsuro Hayashi, Masao Ueki, Gen Tamiya, Ichiro Maeda, Manabu Fukumoto, Akira Shimizu, Toyonori Tsuzuki, Go Kimura and Yukihiro Kondo
雑誌 Biomolecules 2019, 9(11), 673.
(Special Issue: Application of Artificial Intelligence for Medical Research)
DOI: 10.3390/biom9110673

※研究支援
本研究は、JSPS科研費挑戦的研究(開拓)18H05301「医療人工知能におけるブラックボックスの解明(研究代表者:山本陽一朗)」による支援を受けました。

補足説明

[1] 3D 再構築した病理画像データ
摘出された臓器全体をパラフィン等で固め、約3~5mm幅で全領域において割面の病理スライドを作成した後、臓器の構造を立体像に再構築したもの。

[2] AUC
検査などの性能を表す際に使用されるグラフの一つであるROC(Receiver Operating Characteristic)曲線を作成したときの、グラフ下部の面積のこと。0から1までの値をとり、値が1に近いほど判別能が高い。AUC はArea Under the Curveの略。

[3] 放射線科医が注目したがん領域
本研究では、前立腺MRI検査におけるProstate Imaging Reporting and Data System(PI-RADS)を使用

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